009であそぼ
イエティのものがたり
3

 ジョーがポンコツをしまって小屋にもどってみると、中は大騒ぎであった。フランソワーズがジョーのマフラーを勝手に振り回して説明している。

「私ね、振り返ったのよ。最後に。そしたら」
「そしたらイエティは手を振って、また遊びにいらっしゃいと言いました。」
「クリスマスが終わったばかりだぜ。四月バカには早すぎないか?」
「もう。」
「じゃあ言ってごらん。そいつ、どんな手をしていた? 親指はどっち向いてた?」
「そうね…」
「ほらほら、それじゃ自然雑誌の取材は受けられないよ。」
「そもそも見たこともない動物に遭遇して、黒い幽霊団を疑わなかったのか?」
「だって。ねぇ、ジョーも言ってやって。」

 ジョーはちょっと息を吸った。
「ウソだよ。」
 フランソワーズの目がまん丸くなる。
「動物に会ったのもかい?」ピュンマが聞いた。
「当たり前じゃないか。」ジョーは続けて「君たち、女の子の言うことなら何でも素直に言うことを聞くのかい?」
「おい、今、喋ったのは009だよな。」
「どの口が言う」と004が声を出したのを号令にして、ジョーへの攻撃が始まった。ここのところたまった鬱憤をついでに晴そうと、強くて冷静で生意気なサイボーグ009に皆して飛びかかっていく。
 そしてジョーはこの小屋に来てから初めて声を出して笑ったのである。ジェットに首を絞められ、ブリテンのパイプで殴られながら、息が出来ないくらい大きな声で笑った。

「上がり」005が一言呟いて、カードをテーブルの上に投げ出したので、皆慌ててゲームの方に戻っていった。満足そうに腕を組んだジェロニモの視線がチラリとこちらを見たような気がする。何か言いたげだったが、ジェロニモのことだからやっぱり口をつぐんでいた。

「イエティなんて居たとしても、世間から隠れ、肩身狭く暮らして絶滅寸前だろうよ。」ブリテンが言った。「タバコ呑みみたいにさ。……吸っていいかい?」
 全員がノーと答えたので、仕方なくブリテンはパイプ磨きに戻った。



 マフラーを返しにフランソワーズがやって来た。
「四月バカには早すぎませんか、ムシュウ?」
「君は何でも仲間に報告しないと気が済まないんだな。」
「そうよ。だってそれが003の仕事ですもの。」
「秘密だって必要だよ。……君には秘密ってないの?」
「ここで秘密なんて持てっこないわ。」

 そうかもしれない。それでも黙っていようと思った。


おわり
[04.12.28]


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管理人:wren